シェアオフィス/レンタルオフィスで銀行の法人口座を作るために必要なこと
晴れて用意したシェアオフィスやレンタルオフィス。新しく拠点を構えてビジネスを展開していくためには、銀行の法人口座の開設が必要です。果たして事務所がシェアオフィスやレンタルオフィスで銀行口座の開設はできるのでしょうか?
ズバリ答えは「可能」です。ただし、法人口座を開設するためには事前に入念な準備が必要です。口座開設までの手順や注意点を見ていきましょう。
準備その1・希望に照らし合わせて考える
事業の目的と内容を整理する
銀行は法人口座開設時に審査という名目で実態調査をおこないます。そのため、信用できる会社であることを銀行に認めてもらう必要があります。まずは事業の目的や内容を簡潔にわかりやすく説明できるように整理しておきましょう。事業の目的はシンプルに分かりやすく書きます。
事業内容があまり多く盛り込まれていると、「何の会社なの?」と不信感を招く恐れがあります。会社の実態が不明瞭とみなされると、審査がNGになることがあります。投資関連の業種などは、「銀行口座を悪用されるのではないか?」と、担当者にあらぬ疑いを持たれることもあります。
会社が取り扱う商品やサービス、取引先などについて、事前に整理しておきましょう。
また、代表者の学歴、職務経歴書や、実際に事業で使用した契約書・受注書・納品書・請求書・領収書といった諸々の書類も業務の実態を示す証拠として用意します。
資本金額の設定に注意する
資本金1円で会社は設立できます。とはいえ、あまりにも資本金額が低い場合には、その分信用度も低くなり、法人口座開設を断られるリスクが高くなります。資本金によって、会社の運営力や体力を判断されることがありますので、資本金が少ない法人は注意が必要です。
一般的に従業員が本人だけ、小人数の法人の場合は資本金額は100万円から300万円くらいといわれています。 金融機関の中には、法人口座開設時の資本金は100万円以上での創業を勧めています。安定的な経営のためには、社員への給料数カ月分の資金が必要になるという理由からです。口座開設の審査で厳しい評価を突きつけられることのないように、資本金額の設定に気をつけましょう。
金融機関を選ぶ
次に法人口座を開設する金融機関はどこにするのか検討していきます。
シェアオフィスやレンタルオフィスの近くにある金融機関を候補にするのは合理的な判断です。金融機関の近隣のシェアオフィス/レンタルオフィスならば、銀行もオフィスの存在を知っているケースも多く審査時に怪しまれる心配も少ないでしょう。
また、法人口座を開設した金融機関がオフィスに近ければ、入出金時に何かと利便性が高くなります。オフィスの近くに「どのような金融機関があるか?」「どこか一番近いか?」「ATMは何台あるか?」など、距離や混雑状況なども金融機関選びではチェックするべきポイントです。
準備その2・必要な書類をそろえる
法人で、手続きに必要なものとは
新規の銀行口座開設の際に必ず提出が必要なのが本人確認書類です。手続きの際には、忘れずに準備しておきましょう。
1点目は、代表者の写真付き身分証明書です。運転免許証、パスポート、マイナンバーカード、住基カードなどのいずれか1つを用意します。
2点目は、履歴事項全部証明書の原本で発行後3カ月以内のものです。ちなみに、この原本は法人登記後に約1、2週間ほどで法務局で取得することができます。
3点目は、印鑑証明書です。こちらも同じく発行後3カ月以内の原本が必要です。会社の定款についても、提出を求められることがありますので用意しましょう。ほかに官公庁などから発行された免許や許認可などがあれば、それも持参しましょう。
必要書類は金融機関によって若干異なることもあるので、法人口座開設をしたい金融機関が決まったら、事前にホームページや電話で直接確認をしてから赴くのが良いでしょう。
個人事業主で、手続きに必要なものとは
フリーランス、個人事業主の場合には、名義人に屋号を付けた口座を事業用として銀行で開設することもできます。
フリーランスや個人事業では、業務歴の長さが信用力として問われることがあります。業務歴自体が短ければ、事業とそれに伴う所得が安定していないと見なされるケースがあります。
事業に利用していた金融機関の個人名義の履歴が増すにしたがって、信用度も上がっていきます。その結果、個人事業主用の屋号入りの口座開設もスムーズにおこなえます。
事業の期間も大切ですが、まずは事業の実績を証明、説明することができるかもポイントになります。具体的に「何が」「誰に」「どのように」「いくら売れたのか」という事業を証明するものを用意すると信用度もアップします。
以上の点を踏まえた上で、写真付き身分証明書である、運転免許証やパスポート、マイナンバーカード、住基カードのいずれかを持参して金融機関に出向きましょう。
手続きの際に、用意しておきたいものとは
本人確認書類の他に、自己経歴書をまとめておくこともおすすめです。内容としては、学歴から職務経歴など、今までどのような職業に携わってきたのかを詳しく説明する書面です。
これまでの経験が、これからの事業にどのように繋がっていくのかを明確にしておくのが望ましいです。
さらに、会社概要や事業計画書も準備しておきたいところです。この先、事業をどのように成長させるのかを、金融機関の審査担当者に具体的に説明します。担当者に対して言葉で説明するだけでなく、根拠と数値を記載した事業計画書を提示することができれば、説得力も増します。その際には事業拠点を証明するために、シェアオフィス/レンタルオフィスの契約書も持参しましょう。
事業に実質的支配者が存在する場合には、その人のことが分かる確認資料がさらに必要になります。取締役としての登記がなくても、実質的に経営権を握る人物がいるのであれば、写真付き身分証明書のコピーなどを合わせて用意しておきます。
金融機関による違い
都市銀行の場合
法人口座を開設する金融機関の選択肢は数多くありますが、まずは都市銀行から見ていきましょう。
都市銀行をメインバンクにする魅力は、何といっても信用度が高いことです。取引き先に与えるイメージにも大きく影響します。都市銀行を利用するメリットは、支店数の多さ、ATMの多さも挙げられます。外出時に急ぎの入出金があるときでも、近くの支店を利用すれば手数料は少なくて済みます。記帳したいときにも便利です。 都市銀行は信用力を重視するゆえに法人口座開設の審査は厳しいのが特徴です。都市銀行に口座開設を申し込む場合には、準備と対策をおこなった後に検討しましょう。
地方銀行、信用金庫の場合
地方銀行や信用金庫は都市銀行と比較して口座開設の審査はさほど厳しくありません。ですので、都市銀行の審査が通らなかった場合には、地方銀行、信用金庫に切り換えるのも一つの方法です。
地方銀行、信用金庫を活用するメリットは、中小・零細企業でも融資の審査が通りやすいことが挙げられます。メインバンクとして活用していれば、尚更、審査を優遇してくれます。小口の融資にも柔軟に対応する信用金庫もありますので急な用立ての際には助かります。スタートアップしたばかりで運転資金が少ない会社にとっては頼りになる存在と言えるでしょう。
一方で、首都圏では都市銀行に比べて店舗数が限られてくるため、利便性が落ちてしまう点は十分に考慮しておく必要があります。
自治体の中には、地方銀行とのコラボレーションをおこなって、起業にまつわるイベントや融資に関連したプロモーションを実施しているところもあります。機会があれば、こうした企画を利用してみるのも面白いかもしれません。
ネット銀行の場合
ネット銀行では、店舗での手続きは必要なく、取引はインターネット上ですべてを完結することができます。
ネット銀行のメリットは、店舗や人を介さないで済むために、振込やATM利用料といったさまざまな手数料が安く設定されています。ちょっとした振り込みをする際にも、WEB上で取引が完結しますので、利便性は非常に高いと言えるでしょう。手続き可能な曜日や時間を気にかけることなく、365日24時間あらゆる時間帯で利用可能な銀行がほとんどです。
デメリットとしては、緊急時に、対面で相談にのってくれる窓口がないことです。店舗がないため、相談する際にはコールセンターに電話相談、メール相談のいずれかになります。
ネット銀行はサービスの範囲も限定的で、「口座振替の自動引き落としに対応できない」「融資が受けられない」などのマイナス面もありますので、利用目的をよく考えた上で選択しましょう。一般的にネット銀行は店舗型の銀行よりも法人口座開設の審査は通りやすいようです。
ゆうちょ銀行の場合
ゆうちょ銀行の大きな魅力は、支店の数やATMの多さからくる使い勝手の良さです。全国どの市区町村にもありますので、地方出張が多い人などには便利です。また、ATMの手数料は無料で、ゆうちょ銀行間での振替手数料もかかりません。少額の手数料も、積もり積もれば大きな金額になりますので”手数料無料”は重要なポイントです。
デメリットとしては、ゆうちょ銀行が設定している口座の預入限度額が1300万円ということが挙げられます。法人の規模が大きくなった場合にはこの限度額を超えることがあるため要注意です。ただし、この場合の口座とは、通常貯金、定額貯金、定期貯金のすべてを合わせたものです。振替貯金口座だけは、預入限度額がありません。
預入限度額について心配ならば、ゆうちょ銀行以外に、たとえばネット銀行などと併用する必要性が出てきます。
これだけは気をつけたい契約時の注意点
電話の固定回線はあるか
シェアオフィス/レンタルオフィスでの法人口座を開設するには、本人確認や事業の実態確認が重要になります。 そのため、法人としての固定電話回線が用意されていることが大切です。固定電話がなければ、オフィス自体の存在や実態が不明と取られる恐れもあります。金融機関の中には、法人口座開設の要件として固定電話回線があることを挙げている銀行もあります。そもそも申込書類に、携帯電話は不可で固定電話番号を記入するよう注意書きされている場合もあります。
固定電話は実際のビジネスに必要か不要かという判断だけでなく、法人口座開設のためにも重要ですので、導入を検討しましょう。
銀行訪問の際は、身だしなみチェックを
法人口座開設のためには必要書類だけがきちんとそろっていれば問題なし、とは言い切れません。その書類を持参する肝心の代表者自身も、信用に値するかどうかを判断されます。銀行訪問時にはきちんとした服装を心がけたほうが良いでしょう。必ずスーツ着用という決まりはありませんが、金融機関の担当者に好感を持たれるような身だしなみで臨みましょう。
プレゼンのおさらいをしておけば慌てない
ここでは逆に、金融機関としての視点から、法人口座の開設について見てみましょう。
シェアオフィス/レンタルオフィスを構えた起業家が、口座開設をしたいとやって来る。「どのような事業なのか」「合法な事業なのか」「事業として成立するのか」「口座を悪用する意図はないのか」など、金融機関の担当者としては、慎重に審査に当たらねばなりません。そのため、金融機関の担当者側から質問を受けた場合は、明確かつ簡潔に回答する必要があります。
その場では、言葉での説明だけでなく、事業の内容を説明するには、資料を具体的に準備しましょう。会社案内のパンフレット、商品サンプル、見積書など、実際に事業で使っているものを提示するのです。
会社のホームページは用意していますか?法人口座開設の審査で、WEBサイトに載っている内容がチェックされると言われていますのでできれば開設しておきたいものです。
また、事業の実態について相手に説明できるよう、その証拠を提示できるよう、プレゼンテーションの十分な準備をしてから、金融機関を訪問しましょう。
まとめ
昨今、法人口座開設は難しくなってきています。それは、マネーロンダリングや振込め詐欺のような犯罪に使用されてしまう口座の開設を阻止するため、警視庁から金融機関に対して、法人口座開設の際の審査を厳格化するよう通達が出されているためです。また、口座開設は銀行にとってもコストになるのも理由の一つです。
しかし、しっかりとした下準備と心構えがあれば、シェアオフィス/レンタルオフィスであっても、法人口座を開設することはできます。これから事業を進めていく中で、法人口座と、個人口座では取引先から見てその信頼度には格段の違いがあります。法人口座を有していることが、会社としてのブランド力やステータスとして一役買うことにつながるでしょう。
しっかりと下調べをし、準備を万端にし、いざ法人口座開設に臨んでください。